「今日はバンを用意してきましたが大丈夫ですか?」
「うん ダンボールが4個とこの紙袋だけだ」
「では 運びましょう」
「ありがとう」
神山と田代が荷物をバンの中に入れ出発できる準備が出来た
最後に電話機の転送を確認しバンに乗った
「では お願いします 行き先は上原ですが」
「はい高橋から聞いていますからご安心下さい
でも現場で分らなくなりましたら教えてください」
「うん 分った」
バンの中には神山の荷物のほかに家電製品の
ダンボールが幾つか積まれていた
「大変ですね この様なものもまで運んでいるんですか」
「いいえ これは神山さんの所にお届けですよ」
田代は運転しながらこちらをちらっと向き 笑っていた
「しかし神山さん 大変ですね」
「まあ しょうがないでしょ」
「私は東京に居たときに 神山さんを拝見しているのですよ」
「えっ どこで?」
「勿論 上野店の現場ですがね」
「そうなんですか 声を掛けてくれれば良かったのに」
「いえ そんな雰囲気ではなかったですよ」
田代は8年前 上野店の婦人服フロア改装工事の時に
現場監督として2週間ほど入店し作業をしていた
店の営業時間内外関係なくして神山が点検に来ていた事を話した
ある時オープン棚の支柱位置がずれて固定され壁との隙間が出来て
困っていた時に たまたま神山が現場を訪れた
『何を考えているのですか 早く作業を進めてください』
『ええ すみません ここに隙間が空いてしまうので困っています』
その時に神山は少し考え
『ここの壁を少しふかす事は可能ですか』
『はい でもどうしたら良いか』
『PBをこの棚の幅に合わせ後ろの壁から支えれば
見た目もおかしくないし 大丈夫ですよ』
神山は簡単なスケッチを図面に書き込み
『さあ 頑張ってくださいね 明日は商品の納品がありますからね』
『でも 大丈夫ですか』
『大丈夫です 責任は僕が取りますから』
「神山さんはそう言われて すぐにその場を出て行かれたんですよ」
「そんな事有りましたかね」
「ええ 結局その後 色々検討した結果 神山案になったんですよ」
「そうだったんですか」
「あの時 お礼もそこそこに現場が終った時に
お会いしたいと考えていたんですよ」
「それはそれは ありがとうございます」
「僕はあの時から神山さんと一緒に仕事をしたいと思っていますよ」
「そんな でもありがとうございます」
神山と田代は昔話をしながら上原のマンションに着いた
この荷物を二人で上げるとなると大変だと思っていたが
田代は大きな台車をバンの上に取り付けていたのをはずした
台車といっても2.5x5(尺)のコンパネにキャスターと
紐を付けただけの簡単なものだが 一回で全てを運べる事が出来た
唯一 エレベーターの出し入れだけが傷をつけないよう大変だった
普段なら養生をするのだが 今回は少ないので手当てをしなかった
神山が部屋を空けると荷物を玄関口に運び出し
「神山さん 家電製品を配置しましょう」
「うん しかし凄いな このテレビは」
「えっ テレビではないですよ モニターですよ」
「あっ モニターね でかいね」
「ええ プレゼンの時に良く使いますがね」
神山はこの部屋がアルタの事務所になって行く事に気が重かった
「では チューナーを取り付ければテレビが見られるね」
「ええ 高橋に仰ってくだされば用意しますよ」
田代は60インチのモニターとパソコンを接続し終えると
パソコンを起動させた
モニターにパソコンの画面が映し出されると
「神山さん OKですよ」
「うん ありがとう」
「なにかあったら 内野か田中に言ってください」
「うん分った」
「彼らは この様な技術に特出していますから」
「へえー 誠ちゃんと幸三君が?」
「ええ 技術屋顔負けですよ 彼らの腕は」
田代はモニターの設置が終ると残りのダンボールを開き
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