2010年8月4日水曜日

Vol.25 出会い -2-2

「そうしたら私 干物の美味しいのを買ってきますね」

そう言って亜紀は席を外した
二人きりになると 神山は催事課で起きている事を話始めた
金子も呑みながら話を聞いてくれた
「山ちゃん 管財の西野理事が動くって事は 人事だよ
うん 間違いないよ だから山ちゃんか杉田君か
或いは人間が増えるかだろう それしかないな 考えると」
「やはり 人事異動か ひょっとして9等級か俺」
「ははは それはないな だったら理事は動かないよ
でも気になるな 理事とアルタはツウツウだからな」
金子は機械担当だったが社内外事情に精通していて 
人事移動もだいたい予想が当たっていた

二人は考えながら杯を進めていくと金子が
「山ちゃん 御殿場のアウトレットは知っているよな」
「うん その事も考えた しかし来年の秋以降に着工だろ
そうすると この時期に動く理由はないしな
例え 俺が営繕に戻るとしても 時期が変だよ」
「しかし アルタは横浜が大変で人手不足なんだ
特に山ちゃんクラスが そこで山ちゃんの力を貸して欲しい
だってデザインが出来て現場は見れて精算が出来てって
上野と銀座を見ても誰も居ないぞ 山ちゃんだけだ」
「そうかなー」
「きっと出向だよ 今 横浜が急ピッチで進んでいるだろ
アルタではネコの手も借りたいくらいだ
そこで ニーナ・ニーナの仕事は山ちゃんに任せる」
「そうかなー でもニーナ・ニーナの仕事って言っても 来年秋だろ」
「だから今から手を打つわけさ 急に話をしても纏まらないだろ
この秋とかに出向出来るように 人事が終わったこの時期に
理事のところに話に行ったんだよ」
神山はまだ信じられないと思っていた
何しろ昨日の今日で それに倉元のワザとらしい返事が気になった

二人の沈黙は続いたが 突然赤ちゃんの鳴き声で沈黙は裂かれた
「山ちゃん 一緒に手伝ってくれ」
「あいよ」                                                  
二人は駆け足で 赤ん坊が寝ている座敷に行くと
赤ん坊を抱き上げて ゆすっているとぴたっと泣きやんだ
「山ちゃん 上手だね 泣きやんだよ」
「ははは 俺に恋しているんだよ」
「そうだな ははは」
二人はそのまま赤ん坊を抱いたまま 食堂に戻り再び呑んだ

暫くすると亜紀が買い物から戻ってきて 食堂の二人を見て
クスクスと笑いながら 干物やおかずの調理を始めた

すっかり夜になるとマドからは少し冷たい風が入ってきて
それがお酒を呑んでいる二人には心地よかった
海の向こうに伊豆半島が見えて 右側には旅館やホテルの
照明が海面に反射してとても綺麗な光景だった

神山と金子は24時頃まで呑んで 金子が
「山ちゃん そろそろ寝ようか」
と言わなければ 延々と呑んでいただろう

「明日は8時頃でいいかな?」
「うん 充分に間に合うよ」
「こだまで出勤したらどう 45分で東京駅だぞ」
「ははは それも楽しいね そうしようかな」
「うん 朝ゆっくり出来るでしょ」
「わかった じゃあそうするわ」
「じゃあ お休み」
「うん もう一回温泉に入って寝ます お休み」

神山は温泉でもう一度汗を流して床に就いた





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