2011年3月9日水曜日

Vol.242 青葉 -5-19


二人が立ち上がると
ウエイトレス達は皆深々とお辞儀をし見送った
「ありがとうございました」

「ごちそうさま あなた」
「いえいえ久しぶりですよ あんなに食べたのは」
神山と亜矢子は ソファーに沈んで寛いでいた
帰って来る時レストランの時計が21時20分を指していたので
2時間強 ゆっくり食べていた事になる
亜矢子は 先ほどのホテル案内を見ていたが 何かを見つけたのか
「あなた大きいお風呂に行きましょうよ 屋天風呂ですって」
「うん 僕もさっき気にしていたんだ行こう」
「では45分くらいかな?」
「そうね髪を流したいから では10時15分くらいね」
「うんでも待っていなくていいよ
多分りっぱな待合は無いと思うし」
「そうね 椅子があったら少し待っているわね 5分くらい」
「うんそうしよう 風呂場には大抵時計があるからね お願いします」
神山がTシャツを脱ぎ ベッドに置くと亜矢子が丁寧にたたんだ
浴衣に丹前を羽織って 部屋を出ると腕を組ん歩いた
エレベーター前に着き ボタンを押すとすぐ箱が来て乗ると
亜矢子が唇を突き出してきたので 神山は軽く合わせた
箱が2階に着くと 目の前が露天風呂の出入り口になっていて
ガラス戸を開け入った
男湯と女湯の紺地に白抜きの暖簾が掛かっていた
入り口間に椅子が無いので出た時 居なかったら部屋に戻る事にした
「じゃあね」
「うん」
亜矢子はニコニコと手を振り暖簾をくぐり消えた

神山は入ると直ぐに 貴重品預かりのロッカーが有ったので
部屋のキーカードとロレックスを預け 暗証番号を入力した
脱衣籠に脱ぎ捨て 風呂場に入った
入浴客は少なくゆっくりする事が出来ると感じた
自慢の屋天風呂に行ってみた
部屋のテラスで見たように 海を眼下に見ることが出来る
真っ黒な海に 月の光が反射していて 安らいだ気分にしてくれる
国道134号線を走る車のヘッドライトが
ミニュチュアを見ているようだった
ここだけ世界が止まったように 静寂な空間だった
心地よいさざ波の音 海風が防風林にささやく音 聞こえてくる音は
それだけだったが 静かな音楽を聞いているようだった
先ほど入浴していた人が出たのか 男湯全部が静かになった
打たせ湯の音ジャグジーの泡の音 こちらも水の音楽を奏でている
外の暗さに慣れてくると 小波が月の光を動かして
水平線の向こうは 少し明るく感じた
夜空には 星が零れんばかり輝いていた
東京で見るのと違い こちらの方が比較にならないほど星が多く
輝きも比較にならなかった
こんな素敵な空間を独り占めしていると 思うと幸せだった
(そうだ祥子は新幹線かな一応連絡してみよう)
神山は夜空を見ていたら 祥子を思い出してしまった
急いで髪の毛を洗い 簡単に体を洗うと脱衣所の時計は10時だった
部屋に戻ると テラスにでて携帯電話で祥子に電話した
携帯電話は直ぐにつながり祥子が
「わたしよ こんばんわ どうですか温泉は」
「うん 気持ち良いよ 久しぶりの温泉だし疲れが取れるよ」
「それはよかったわ」
「ところで 今どこですか」
「ええ東京駅ですよ 丁度新幹線の改札を出たところよ」
「ああ それで直ぐ繋がったんだ」
「ええ切符をバッグに戻した瞬間ですもの びっくりしたわ」
「わるかったびっくりさせて それで小田原工場だけど」
「うん どうでした」
「順調です 仕上がりも思っていた以上で 大丈夫です
特に棚什器は見るとびっくりするくらい綺麗に仕上がっているよ」
「それはよかったわ ありがとうございます」
「一応筒井さんにも 報告しておきました」
「どうもありがとう 明日連絡があるわね きっと」
「うん そうだと思うよ」
「私は明日から大変だわ 勿論あなたも大変だけど」
「うん 先日も言ったけど 陳列してオープンに間に合わせる
それが一番大切だよ 細かい所は夜、夜でも補修は出来るからね」
「ええありがとうございます 心強いわあなたが居て」





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