2011年3月1日火曜日

Vol.234 青葉 -4-18


麻のジャケットは 神山が淡いモスグリーンで
亜矢子はホワイトベージュだった
襟の格好からポケット縫製までそっくりだった
「多分 貴方はこんな格好だろうなと
想像してジャケットは買ったの 似合っているかしら 大丈夫?」
「うん 気がつくのが遅かった ごめんね 似合っているよ」
神山はいじらしい一面を発見した
伊豆高原にある赤沢ホテルに電話をすると 満室になっているが
スイートだとまだ空きがあるけれども 宿泊券の種類で追加料金が
発生する事があります それでも宜しいようでしたらご予約を
お願いしますと言われ 予約を入れこれから熱海を出ますと伝えた
「よし 行こう 伊豆高原へ」

亜矢子はけらけら笑いながら 着いて来た
乗車券を買って改札口直ぐ左の階段を上って待っていると
伊豆急下田行きが直ぐに入線する タイミングが良かった
乗車し席に着くと 発車が4時5分なので
急いでビールとおつまみを買った
神山が後ろの車両を見るとロイヤルボックスと書かれた車両が
連結されているので 車掌に聞いてみると 800円追加すれば 
利用できると教えてくれた
席に戻った神山は亜矢子にロイヤルボックスに移る事を伝え
移動した この車両は座席数が極端に少なく
JRのグリーン車よりゆったり出来た
窓際 特に海側に座席が向いていて 車窓からの風景は横に流れる
山側は 4人掛けのボックスシートになっている
海側に座った二人は 同じ格好なので目立った
ホームを歩いている人が車内を見れば この席は目が合う
でも亜矢子は気にしないで 神山に寄りかかってきた
神山はビールのプルトップを開け 亜矢子に手渡した
「ほんと 丁度1週間ぶりだね 再会にかんぱあ~い」
亜矢子もビールを一緒に呑んで一息つくと
「私ね この1週間いろんな事があったの 疲れたわ
だけど 今日あなたに会えたら疲れが何処かに行っちゃったわ」
神山は 自分も忙しかったけど 亜矢子の話を聞くことにしたが
電車が動き始め 最初はトンネルだが 網代を過ぎると海が
見え隠れするようになる
亜矢子の話は 宝くじ2等1千万円が当って 驚いた事と
母親の病状が良くならないので大きい病院に移したらもう少し
こちらに来るのが遅かったら だめになっていたなど
夜勤をしている亜矢子にとっては 辛い事が重なったと思った
「それでね 当選金なんだけど 半分あります ごめんなさい」
亜矢子は500万円の小切手を出した 驚いた神山は
「いいよ 亜矢子が使えば 僕はいいよ」
「でも 買ったのはあなたでしょ だから半分 
ごめんなさい 全額お渡しするつもりだったの 
だけど母に使ったの 本当に ごめんなさい」
亜矢子は俯き涙を流しごめんなさいを何回も言った 神山は明るく
「でも 赤パンは亜矢子の赤パンじゃないか だから亜矢子のだよ」
少し声が大きかったのか 亜矢子は顔を真っ赤にして
「恥ずかしいでしょ いわないで いじわる」
今度は 笑うのをこらえて 涙を流した
「ねぇ 受け取らないんだったら 赤パンの話 止めないからね」
「やめて もう いじわる」
ますます赤くなり 可愛らしかった
「わったわ だけど本当にいいの? 私は助かるけど、、、」
「うん さっきから言っているように 大丈夫
あれば 車を買うけど 亜矢子と一緒だと美味しい地ビール
呑む事出来ないジャン お母さんに使って 赤パンの魔力だよ」
「もう ばか 言わないって約束でしょ」
亜矢子は 嬉しくなったのか 顔を涙でぐしゃぐしゃにして
神山の胸を 叩いてきた
「ほら こっちを向いてごらん」
亜矢子は最初はいやいやしたが 神山に顔を向けた
「ほら マスカラがとれて パンダだぞ」
亜矢子は鏡を見て ティッシュで綺麗にふき取った
「ねぇ 可笑しくない 平気?」
亜矢子のすっぴんは初めてではないが さらに綺麗に見えた
「大丈夫だよ 化粧無くても充分 いや充分以上さ」
「だめよ 誤魔化したって そうしたらこの小切手頂きます」
「うん しかし あの あ・か・パ・ンの魔力は凄いな」
「ねぇ そう赤パン 赤パンって言わないで お願いだから
あのショーツは 友人が話していたの それで買ってみたの」
「そうなんだ そうするとその友人にお礼を言わないとねぇ」





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