2010年11月29日月曜日

Vol.142 若葉 -4-11

神山は エスカレーターでカウンターへ向かった
田中は神山を見つけると手を振りお辞儀した
「神山さん すみません ほんとうに」 
「しかし どうした」
「はい これは少ないですけど今回の謝礼です」
「なんだよ 後で良いのに」 
「社長からのお話で すみません」
神山は田中から茶封筒を受け取り丹前にしまった
「その中には僕が撮影した プリントが入っているよ」 
「ええ 高橋から聞いています」
「これから プレゼンを製作するの?」
「はい まいっています」
「うん 帰り道 気をつけてな」
「ありがとうございます では失礼します」
神山は短い時間だったが現実に引き戻された
レストランに戻ると由香里が寂しそうに庭園を見ていた
「ごめんね」
「早いわね もう終ったの」
「うん 終ったよ これから本当の休みだ」
「そうね お疲れ様でした」
神山が戻ってきたので笑顔が戻った
二人は先ほどのビールを呑みほし新たに注文した
「ねぇ あなた そろそろご飯は食べないの?」
神山は地ビールが美味しいと言ってつまみばかり食べていた 
「うん 何を食べようか迷っています」
「そうしたら お雑炊が美味しいわよ」
神山は由香里の勧める鳥雑炊を食べる事にした
奥行きのある日本庭園を眺めながら雑炊を食べていると
「ねぇ 本当に会社の事を忘れますね」
由香里も現実の世界を忘れたいのか否か 忘れる為に
神山を愛しているのか それとも心底愛しているのか
由香里自身も分らなかった
今は愛している人と時を過ごして幸せだが
果たして現実の世界でも 一緒になれるだろうか不安はあった

神山は食べ終わると時計を見た
「まだ9時をすこしすぎたところだけど どうする」
周りの宿泊客が少しずつ居なくなり神山も食べ終わったので
「出ますか」
「ええ 最後は恥ずかしいですよ」
神山と由香里はレストランを出て 部屋に戻った
部屋に戻るとソファーに腰掛け由香里を呼んだ
「ねえ さっき田中君が謝礼と言って僕に渡したんだよ」
「えっ また謝礼 どうなっているの」
神山は銀行の封筒を由香里に渡した
「これは 由香里が受け取っていいものだよ」
「なんで だって ただ撮影しただけでしょ」
「しかしニーナ・ニーナの仕事以外で使用するからその分でしょ」
由香里は封筒から現金を取り出し 驚いた
「ねぇ あなた受け取れないわ こんな大金」
由香里が神山に見せたのは30万円あった
しかし神山は 由香里が撮影していなければ
ニーナ・ニーナ以外のプレゼンが出来ない事を考えれば安いと思った
「良いじゃない 受け取っておきなよ」
「いやよ こんな大金」
「安いもんだよ アルタにしてみれば」
「だけど なんか怖いわ」
「ビジネスで考えれば安いもんだよ」
「そうしたら フィルムの売買契約書とか有ったほうが、、、」
「そうだね 今夜にでも電話するから受け取っておきなよ」
「それまで あなたが預かっていて」
「うん だけど使っちゃうぞ」
「だって あなたが居なければ無いもんだから いいわよ」
「おいおい うそだよ 預かりますよ」
神山は預かるのが嫌だったので 高橋に電話した
「孝ちゃん 神山です」
「ありがとうございます 先ほど田中君から連絡ありました」
「そこで 相談だが 今いい?」
「うん 大丈夫」
「実は斉藤さんが受け取らないんだよ さっきの謝礼」
「どうして?」
「うん フイルムの売買契約書があれば頂きますと言っている」
「うん 山ちゃん 難しいよ」
「そうか 社長の隠し資産か」





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