2010年11月3日水曜日

Vol.116 若葉 -2-9

若女将が小さな七輪に火を入れ
「このかつおは ここではめったに捕れない早鰹です」
一口大の鰹を火であぶり取り皿に置いていった
「どうぞ お召し上がりくださいませ 温かくても美味しいですよ」
「初めて 温かい あぶりを頂くの」
「普通は 冷ましますけど あぶりたても美味しいですよ」
由香里はすぐにたれに付け口に運んだ
「おいしい~ 本当に美味しい」
「よかったです お褒め頂きまして」
神山も若女将の勧めるあぶりを口に運んだ
「若女将 美味しいです ありがとう」
「気に入って頂いて 恐縮です」
二人は若女将があぶってくれた鰹を無言で口に運んだ
お酒を呑む事を忘れていた神山は
「若女将 日本酒をください」
「はい かしこまりました」
鰹のあぶりを済ませると 日本酒を用意する為部屋を出た

神山は冷蔵庫からビールを出しコップに注ぎ
「では 改めて 乾杯」
「はい 乾杯」
由香里も神山も鮮魚を味わっていた
ビールを呑み終えた頃 若女将が日本酒を持ってきた
一緒に漬けタレも用意し
「このタレはあぶりが冷めてから使って下さい
又一味違った美味しさですよ」
「気を使ってくれてありがとう」
「では ごゆっくりお召し上がりくださいませ」
「うん」
「お下げの御用は こちらの呼び鈴でお願いします」
「はい 分りました」
若女将は先ほどと同じように深くお辞儀をし襖を閉めた
由香里も神山も並んでいる料理を味わいながら口に運び
「こんなに美味しいのは初めてよ」
「よかったよ 僕と居るからだろ」
「そうね だけど新鮮で美味しいわ」
「男も新鮮なほうが美味しいのかな」
「ば~か 何言っているの 食事中に」
「だから聞いたんじゃないか」
「しらない だったら女性は?」
「うん それなりにいいよ」
「ほら そうやって誤魔化す」
「違うってば そんな」
「男も女も 関係有りません 何考えているの」 
「ごめん そんなに怒るなよ」
「いくら部長さんでも許せないわ」
「分った ごめん だから機嫌を直しておくれ」
「いやっ」
「どうしたらいい」
「私の前に来て 謝りなさい」
神山はこんなに強く自分をはっきりと主張する
由香里の姿を見た事が無く 恐ろしくなり
彼女の 膝に近いところで頭を下げた
「ごめんなさい もう二度と言いません」
「本当に 分ってくれた」
神山はまだ頭を上げずに答えた
「はい 恋愛の差別をしません ごめんなさい」
由香里は神山の髪の毛をゆっくりと触り始め
「私に対して 失礼よ あなたしか思っていないのに」
由香里は少し涙声になっていたが 頭を上げずに聞いていた
「さっきの様な事言われたら わたしどうすればいいの
あなたをこんなに 愛しているのに、、、」

神山は自分の頭で由香里の膝頭を割って前に進み
はだけた浴衣の中に頭を滑り込ませたが
由香里は 神山の頭を上げ自分の正面に向けた
神山は今まで見た事が無い由香里の顔を見た
たとえ様が無いくらい美しく愛らしい顔をしていた
無言でごめんとうなずきキスをすると
由香里はすぐに反応し背をそらした
由香里の機嫌を取り直し 神山は席に戻りビールで
「由香里 やり直しの乾杯だ」
「もう なによ その気にさせておいて ば~か」
「よかった 元気になって」





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