「あっ もうこんな時間か では明日お願いしますね」
「はい 東京駅でお待ちしています」
「うん 頼みますよ」
神山は杉田との打ち合わせを早めに切り上げる事にした
「一応 これで大丈夫だ また月曜日にでも連絡をくれ 今夜は
これから別件で打ち合わせが入っているから これで打ち切り」
「はい 大丈夫ですよ 明日いい写真をお願いしますね」
「しかし カメラマンは由香里姫だからな」
「安心ですよ 神山さんが付いているから」
「じゃあ 頼んだぞ 倉さん御殿場に行ってきます」
「おう 頼んだぞ」
「はい」
神山は倉元と奥村課長 そして市川に挨拶をして出て行った
ビルを出てすぐ傍にあるコインロッカーで
昼間預けた小さな旅行鞄を出していると
「早かったのね あなた」
後ろから由香里が声を掛けてきた
「まあね 大体は分っている事が多いから 翔でも大丈夫」
時計を見てみると6時10分を少し過ぎた時間だった
「10分丁度にタイムカードを押したの」
「どうりで そうしたら そこから車で行こう」
「はい」
神山は傍に駐車しているタクシーに乗り込み
「東京駅の新幹線口にお願いします」
運転手はバックミラーでこちらを確認しながら返事をした
「今夜はどこに泊まるの?」
「熱海の先にある 網代だよ」
「御殿場と随分とはなれているでしょ」
「そんな事は無いさ まあ心配しないで ついて来なさい」
「は~い わ・か・り・ま・し・た」
「しかし 由香里を誤解していた ごめん」
「な~あに 突然」
「いや あとで」
神山は由香里が市川と男女の関係になっていると思って
少し距離をおいて付き合っていた事を反省していた
今回の出張はその穴埋めをする考えもあり
一日でも早く謝りたく計画した
たまたまアルタでも写真が必要という事が神山に拍車を掛けた
タクシーは東京駅の八重洲口に着き新幹線みどりの窓口に向かった
「一番早い熱海で大人2名 グリーン車でお願いします」
「18時37分のこだまが有りますが いいですか」
「ええ お願いします」
神山はお金を払うと すぐに新幹線発車ホームに向かった
急いでいる神山に由香里は
「何を急いでいるの?」
「だって もうホームに入っているのだろう」
「だけど まだ充分に間に合うわよ」
「ゆっくりできるじゃないか 乗ってしまえば」
「それもそうね しかしグリーン車は驚いたわ」
「いいの あとで」
「ビールでも呑みましょうか?」
「うん 僕が買ってくるよ」
「いいの? そんなに」
「だけど 呑みすぎると後が美味しくなくなるから ほどほどだよ」
「えぇ 分りました」
神山は売店でビールと適当に乾き物を買って由香里と車内に入った
自由席と指定席は七割がた埋まっていたがグリーン車には
他に10名程度の乗客しか居なかった
神山たちは進行方向後ろから2列目の席で
周りには誰も乗車してくる気配が無かった
手荷物を棚に載せ由香里を窓がわに座らせた
神山は由香里のジーンズファッションを見ていると
由香里が神山の目を見つめながら
「何見ているの あなた」
「だって 見た事が無いファッションだから 驚いている」
「そうね 初めてでしょ いつもと違うでしょ」
「うん ジーンズも似合うよ」
「ほんと 嬉しいわ 誉められると」
「いつもスーツ姿だったから 逆に新鮮だよ」
「私 今日は普段着よ」
「へぇ しかし似合っているよ ほんと」
「そんなに誉められても何も出ませんよ」
「まあ そんなに苛めるな ビールを呑もう」
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