2010年10月27日水曜日

Vol.109 若葉 -2-9

「どうしたんだ なんかよそよそしいよ」
「だって 部長になったら存在が遠いもん」
「そんな事無いよ 今までと一緒だよ」
「そうだといいけど 心配で」
「そんなに心配か?」
「ええ だってこれから行動範囲が広がるでしょ」
「それはそうだけど 銀座が中心だよ」
「あなたの仕事が成功すればするほど
私からどんどん離れていく気がしているの」
「思い過ごしだよ さあ気分を治して食べようよ」
「そうね 折角のお刺身がまずくなってしまいますからね」
「そうそう 今度ゆっくり来よう」
丁度ビールを呑み終わった頃に新しいビールと
活き造りの盛り合わせとえびのてんぷらが届いた
脇には丼にシャリが盛られ 丼でも食べられるようになっていた
新鮮な具はシャリに乗せても美味しく
たれをヌルると一層箸がすすんだ
神山は箸を置きビールを呑もうとした時に由香里を見たが
今まで見た事が無い上品さで口に運ぶ仕草を見とれた
着物姿を注文しこの場所で会食をしたいと想像していたら
「ねえ あなた なにを見ているの さっきから」
「いや 着物姿の由香里を想像していてさ それで」
「いやだわ 恥ずかしいですよ」
由香里はほほを薄桜色に染め恥ずかしそうに俯いた
少しの沈黙の後に襖が開き
「食後のデザートです」
店員はメロンなどのフルーツ盛り合わせを座卓に並べお辞儀をした
襖を閉める前に竹の短冊を神山の脇に置いて出て行った
この時 神山が『あとで』と言えばその日の清算ではなく
次回来店した時に支払う事ができたが
今日は会計を済ませる事にしていたので竹の短冊を受けとった
デザートを食べ終え腕時計を覗くと2時30分を少し廻っていた
座敷を出た通路の真中にある会計で竹の短冊を渡し清算をすると
2時30分を少し廻っていた
催事課の事務所に着いたのは3時にはまだ余裕があったが
神山の到着を心配していた杉田が
「こんにちわ 心配していました」
「いや ごめんごめん 美味しい寿司を食べていたから」
「そんな 僕が一人で会議に出るのかと心配していました」
「大丈夫だよ 翔が一人でも」
「おう 翔 一人で行ってこいや」
「そんな 倉さんまで 苛めないで下さいよ」
「しかし 山ちゃん 頑張っているな」
「まあ 大変ですけど 倉さんにご迷惑をおかけして」
「おう だけど翔は少しは大人になったぞ」
「そうですか よかった」
「また 二人で苛めないで下さいよ」
「そうよ この頃随分と男になってきたわよ」
「斉藤さんまで でもいいや 由香里姫に誉められて」
「そうがんばんなさい 神山さんのように」
由香里は多少のお酒では顔には出ないが今日は神山に
誉められた事が合ったせいかほんのりとほほに出ていた
「おう 由香里姫に誉められたら 頑張らないといかんぞ」
「翔 そろそろ行こう」

神山は会議の時間が迫ってきたので杉田を連れ出した
会議室に入ると催事担当の課長や係長が半数近く出席をしていた
神山たちの席はコの字型になっている議長の横に座る事になっていて
杉田は議長の横に神山を座らそうとしたが
神山は議長の横に杉田を座らせた
あくまでも催事の中心人物を杉田になってもらいたかった
3時になり全員が揃うと販促課長の説明が始まり
売場担当の確認作業が一通り終った
催事課の会場装飾 什器搬入などの説明が終ると
売場から質問が寄せられたが杉田は補足説明をしながら
なんなくこなしたが 商品陳列が当日間に合わない売場から
「現場でハンガーの掛け替えや商品の置き換えは時間的に難しい」
これには杉田も少し考え 神山を見てみたが
自分で考えて答えを出しなさいと 目で合図をした
少し戸惑っている杉田を見て 販促課長も
「催事課さん どうしますか」
杉田はいよいよ余裕を無くし考えあぐんだ時 神山が
「うちとしては この会場に什器の事前搬入は出来ませんが
こうしたら如何でしょうか





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