4月9日木曜日
上原駅前寿司19時
「お待たせしました ごめんなさい遅くなって」
「そんな事ないよ」
神山は時計を見て
「まだ 7時を少し廻ったところだよ」
「しかし 待ったでしょ」
「僕も 今さっき着いたばかりで ビールだけだよ」
「何か注文はされていますか」
「うん もう直ぐ鮮魚のおつまみと照り焼きが来るよ」
「私もビールを頂きますねっ」
祥子にビールが届き二人で乾杯をし呑み始め
休みの事を会社と話した事を伝えた
「全て自由 但し今だけは」
「今だけって?」
「結局 長期の現場監督だから人事には自己申告になるんだって」
「なんか 大変」
神山は今日仕入れてきたばかりの情報を祥子に教えた
「そうしたら 休みでも働いて 働く日でも休めるの?」
「まあ簡単に言ったら そうなるね」
「だけど縛り付けられない仕事もいいわね」
「まあね しかし 現場は良く出来て当たり前だから 大変だよ」
女将がビールとおつまみを運んできてくれた
「ねえ 昨日現場で言っていた床材の事だけど聞いていい?」
祥子は内装仕様のサンプルは全然見てはいなかったが
今までと違う色が出てくる事を懸念していた
神山はここでは話をしても分らないから現場で説明すると言った
机上ではどんなデザインでも良く見えてしまうが
実際の現場だと微妙に色、形など見る角度や感性で違ってくる
時にはデザイナーが思いもよらない効果が出たりして
デザインが一人歩きする時もある
「そうすると 明朝の現場で教えてくれるのね」
「うん きちんと説明するから心配するな」
「は~い 分りました 安心だものね」
二人は照り焼きが美味しいので 女将に追加注文した
祥子が
「実はね 今夜遅くなったのは 明日の金曜日に
名古屋の実家に帰ることになったの」
「うん その方が良いよ まだ先は長いし」
「寂しくないの?」
「それは寂しいけど 僕は出張になった」
「いつ?」
「土曜日に 御殿場の現場だ」
「だけど まだ何もないところでしょ」
「そう 何も無い所から記録写真を撮るのさ」
「大変ね」
「アルタでも写真を欲しがっていたし ちょうど良かったのさ」
「日帰りなの?」
「いや 休みを兼ねているから泊りがけですよ」
「ひとり?」
「うん なんで」
「あやしいな?」
「仕事だよ し・ご・と ニーナ・ニーナの仕事」
「はいはい 分りました」
神山は御殿場の図面をまだ見ていないが 今夜モールの概要図と
出店予定位置が書かれた図面がFAXされる事を告げた
まだ更地なのではっきりとした場所は分らないものの
周りの情景とかを撮影し その写真を利用して
パソコンで合成写真を製作し プレゼンする事を言った
「そうしたらプレゼンの写真はアルタの写真ではなく
あなたの写真が使われる訳なんだ 凄いわね」
「まあ そうだけど、、、」
「私も御殿場行きたいな」
「もう少し 形が出来てから行こうよ」
「そうね 私ひとりだとさっぱり分らないもの」
アルタでは他の内装工事を専門にする会社より一足早く
コンピューターグラフィックスを導入し他社より抜きん出ていた
プレゼンにCGを導入する事によって 目線での訴求力が違って
例えば床を赤にするか黒くするかユーザーが迷った場合でも
モニターに映し出されている色を瞬時に換える事が出来
仕事を早める上では大変重宝された
「ねぇ そうしたら 7月頃は行けるかしら」
「多分大丈夫だよ 皆お中元で大変なときに行きましょう」
「そうね うれしいわ」
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