2013年4月4日木曜日

Vol.999 紫陽花 -15-60



「そうか 分かりました 気をつけてね」
「はーい 分かりました 寂しいから来てね」
「うん 分かった では」
神山が電話を切り がっかりしていると洋子が
「どうしたの 由紀枝さんでしょ」
「えっ、、、うん スタッフのお母さんが亡くなったんだって
それでシフトがどうにもならないので 今夜から勤務で帰るって、、、」
「はぁー 大変ね でも由紀枝さんと連絡取れたホテルは嬉しいわね」
「僕は悲しいよ、、、」
「もう しっかりしてよ 分かった 由紀枝さんと一緒になりたいんでしょ」
神山は図星を言われ躊躇したが
「うん 半分当っている って言うのも片道だけどね ハハハ」
「そんなぁー 彼女喜ぶわよ だって私だって素敵な女性って思っているわ」
「そうかぁー、、、」
「まぁー どうしたのよ 元気を出してお仕事してくださいね
もう どこかに行ったわけじゃないし、、、」
「ハハハ ごめんごめん そうだね 頑張るよ ははは」

洋子はこの時 神山の本心を聞いてしまった事に少し反省をしながらも
自身これからのことを考えた
神山はこの時 洋子が肝心な事を発言した事を思い出し
「洋子 僕は みんなに片思いさ ハハハ」
そう言うと洋子の額にキスをして 部屋を出て行った
洋子は神山が自分だけでなくみんなにお詫びをしているように聞こえ
少し寂しさがこみ上げてきたが その事が決定している訳ではないと思い
気を紛らわす為に仕事に集中した
神山は新館の屋上にある日本庭園に行きベンチでタバコを吸った
ここは以前 亜矢子と最初に連絡をとった場所でもあり
心を落ち着かせるには絶好の場所でもあった
洋子に図星を言われた事に対し反論はしなかったが 間違いなく神山の
心の中には由紀枝に対する何かしらの芽生えはしていた
(うーん なんだろう でも由紀枝かな、、、)
神山が自問自答していると 来店客のカップルが直ぐ傍のベンチで
「私 貴方が会社をクビになったら別れるわよ ごめんなさい」
「おーい そんな、、、」
「だってそうでしょ 離婚の話だって進んでいないし
当たり前じゃないですか 私たちもう直ぐ50になるのよ」
「うん、、、」
「女ってね 本気で愛していても その人の本心が分からないと
凄く不安なの 特にクビになるって言われたら 生活のことを
一番に考えると思うわ 違う?」
「うん、、、でもさ なんとかなるよ ねえ」
「駄目よ 愛があれば何とかって 嘘よ 最低限のお金は必要よ
そこのところが分からない人だったら お終い」
「おーい そんなぁー だって今までだって、、、」
「何言っているの 私が我慢している事知らなかったの 嫌ねぇー
貴方に恥をかかせたくなくて お会計をしていたの 分からないの」
「そんなぁー、、、」
「はっきりと言わせて頂くわ もう追い回さないでね
もう お終いにしましょうね お願いします」
その言葉を聴いた男は 神山の前を背中を丸くして店内に戻っていった
神山は暫くは二人の会話で人生色々と考えていたが その女性が急に
屋上のフェンスの方に走りパンプスを脱ぎ始めた
神山は一瞬に何をしようとしているか感じ取り 彼女を追いかけた
女性は裸足でフェンスをよじ登ろうとしている所を神山に押さえられた
「お客様 困ります」
「あーあ どうして止めたの あーあ」

神山は女性の心を落ち着かせるために ベンチに座らせ靴を履かせた
「どうされたんですか 驚きましたよ」
「あーあ、、、」
神山は気が動転している女性の事には不得手なので 洋子に電話をした
「分かりました 直ぐに行きます」
洋子が感情を抜きにして来てくれると直ぐに返事をしてくれた事に感謝した
暫くすると洋子が走って神山の待つベンチにきた
神山は直ぐに洋子とバトンタッチすると 別なベンチでタバコを吸った
(もし 本気で考えているとすれば この様な事が起きるんだ 怖いな)
神山は女の本性を垣間見た思いで少し怖くなった
現実 付き合っている女性が 特に泰子や由紀枝は本音で話してきているが
それがこのような事態になったら 防ぐ事は不可能だろうと思った
暫くすると洋子が
「神山常務 女性が落ち着きましたので お見送りします」
「うん お願いします」
神山は40代後半と見える女性と洋子を見送りベンチに座った





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