「そうだね でも何処に行くんだろ、、、」
「うん 不二家のパーラーに寄っていくって 言っていたわ」
「えっー まだ食べるんだ しかし良く入るね 大丈夫かね」
「ふふふ 私だって入るわよ 我慢しているんだから」
「えっ 洋子も入るの へぇー だったら地下の食品で買っていこうよ
3時のおやつに ねっ」
7月のこの時間になるとアスファルトの反射熱で暑く 年齢を重ねた人には
少し辛い時間だったが 若い男女には関係なかった
軒下でアイスクリームを食べたり ペットボトルを口にしたり 暑さを
楽しんでいるようにも見えた
30代や40代の女性になると 白いブラウスやすがすがしいデザインを
基調にしたワンピース姿で 日傘をさしウインドーショッピングを
楽しんでいた
本来鈴やは水曜日が定休日だが お中元時期なので営業をしていた
もっとも鈴やだけでは無く この時期の百貨店は定休日返上で営業をし
売り上げを伸ばし利益の確保に努めた
神山と洋子は地下食品売り場に行くと 食品ギフトセンターが
満員になっている事に満足していたが ここにGOLのアンテナコーナーを
設けてみるのも面白いと思い 客の動向を見ていた
「山ちゃん こんにちわ」
声を掛けてきたのは食品部長だった
「やあ こんにちわ それにしても大入り満員ですね」
「ええ 翔ちゃんが色々とアイデアを出してくれまして 助かっています」
「へぇー そうですか それで少しレイアウトが変わっているんですね」
「ええ 陳列商品量を3%増やし カウンターを3台も増やしたんですよ」
「へぇー そうか判りました バックヤードを無くしたんですね」
「はい よく判りましたね そうなんですよ 時期に応じてバックヤードを
徐々に下げて 今は一番後ろまで下げています」
「なるほど でも大変だったでしょ」
「そこが凄いですよ バックヤードの通常商品を入れておく棚の下に
キャスター付きの台車を履かせたんです だから移動に時間は掛からないし
現場の子たちにも喜ばれていますよ」
「そうですか 大したものですね」
「ハハハ これも山ちゃんからのアドバイスと思っていたけれど、、、」
「ハハハ もうこの頃は 全然話していませんよ アドバイスなんて」
二人が話していると洋子がケーキを買い二人の所へ戻ってきた
「部長さん こんにちわ」
「あっ 理事 こんにちわ ケーキですか」
「ええ 3時のおやつに買い求めました このギフトセンター相乗効果で
売り上げも良いそうですね 喜んでいましたよ」
「ええ ありがたいことです 翔ちゃんの考えなんですよ 助かっています
そうそう 山ちゃん 翔ちゃん 10日に進級だってね 凄いね」
「早いですね」
「だって 秘書課から連絡で部長は出席でしょ」
「あっ そうか ハハハ 僕の所には連絡がこなかったから忘れていました」
神山は翔の進級について部長職になる事は伏せた
(多分 みんな驚くだろうな 課長ではなく部長だもんな ハハハ)
「でも どちらにしても来年の春には課長でしょ いったいなんでですかね」
「まあ 上が考える事はわかりませんね」
「ハハハ 山ちゃんだってトップでしょ さては絡んでいますね」
「ハハハ 内緒です これは企業秘密 さあ帰って仕事をしましょう」
神山は洞察力が鋭い部長と別れると 次長室に戻った
「しかし 部長って呼ばれたら みんな驚くわね」
「だろうね 列席している部長は驚くし 催事課に戻っても大変だし」
「そうね ほんとちょっと前にあなたが経験しているんですものね」
「まあね あの時は上原の工事で大変だったけれど 翔は催事課の仕事を
していくから そこが違うかな ほら僕の場合は 部長職と関係なく
上原の現場と上原のマンションって 働く場所や住む環境がいっぺんに
変わったわけでしょ だからそんなに部長って実感は無かったよ」
「そうね でも私が付いたりしても実感は無かった?」
「うーん 洋子がきても この部屋が出来ても昔のままだよ
勝手に部長になったり理事になったり常務になったり ははは」
「そうね 昔のままね それで後から肩書きが付いて来ているって感じね」
「そうさ 自分から求めていないもの ただし仕事は大変になったね
失敗を許されなくなったし そこかな 実感しているのは ハハハ」
話がひと段落すると 次長席で仕事に集中した
電話が鳴り洋子が出てみると催事課の奥村課長だった
「催事課の奥村ですが すみません 常務をお願いします」
洋子が神山に伝えると
「はい 神山です」
「山ちゃん ちょっと催事課に来てもらえるかな 相談に乗ってほしいんだ」
「はい 直ぐに行きますよ」
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