2011年1月29日土曜日

Vol.203 青葉 -3-17


田代が後ろから言ってきたので
「うん そうなんだよ」
「ご安心下さい ここは自然光が当らないので少し暗く見えますが
塗装現場では自然光を当てながら色合わせをしています」
「そうですか 安心ですよ」
制作途中の什器や建具など一通り点検した神山は
「さすが アルタさん 完璧ですね 感謝します」
「あいがとうございます」
赤坂と田代は顔を見合わせ安堵の表情をした
「しかし 気になることがあるのですが、、、」
「ああ あちらに在る什器ですね」
「ええ もしかして横浜分?」
「はい お察しの通りです」
「本来ならばここで制作しないのですが 場所が無くなり、、、」
「うん そうでしょう あれだけの大きさですからね」
この時期 横浜の百貨店開店準備で
どこのメーカーでも大忙しだった
首都圏では久しぶりの大型百貨店で横浜の
『みなとみらい21計画』と連携している大プロジェックトの
一連工事なので メーカーや下請けは皆力が入る
現在は横浜駅西口が商圏とし地域活性の源だが
東口に『みなとみらい21』の出先が出来ると西口既存店の刺激
そして隣りの桜木町までを一つにした大商圏が出来あがる
神山の鈴やも足元を救われないよう
気を引き締め対応策を考えている

「それでは神山さん 工場の中をご案内します」
「はい ありがとうございます」
「それでは 私は横浜が在りますので これで失礼します」
「はい わかりました 頑張ってください」
「ええ それでは」
田代は神山と赤坂に深々と礼をして 別の部屋に入っていった
赤坂に各作業場を一通り案内され見学が終わると12時になっていた
「神山さん 少し早いですが お昼にしましょうか?」
「はい そうですね」
神山はここから小田原に出て食事をするなら
丁度いい時間だと思ったが果たして
(小田原駅周辺に美味しい処はあるのだろうか)と疑問符が付いた
(まさか 工場周辺の定食屋ではないよな)とも、、、
赤坂が案内したところは工場の3階にある海鮮居酒屋だった
驚いている神山に
「さあ どうぞ こちらです」
赤坂はまだ準備中の札が出ている部屋を案内した
中に入ると料亭の雰囲気でとても居酒屋とは思えなかった
窓側の席に着くと小田原の町が一望でき先に駿河湾が見えた
「凄いですね 会社の中に居酒屋って」
「ええ 社長のお気に入りなんですよ」
「それにしても 普通は考えられないですよ」
「そうですよね 私も最初はびっくりしましたよ」
二人が席に座り落ち着いた所で 生ビールが運ばれてきた
「さあ 神山さんに最終チェックOKと言うとで」
赤坂はそう言うとジョッキを神山の前に出し乾杯をした
「でも 工場内に居酒屋さんは 凄い 初耳ですよ」
「ええ 驚かないで下さい この他に焼き鳥 ラーメン
日本そばなど まだまだ在りますよ」
「へー 、、、」
驚いている神山に
「実は社員食堂が無いんですよ」
「えっ?」
「ええ 社員達は皆 この工場内で食事をするんです
神山さんの会社だけではなく普通 社員食堂で昼食を取りますよね」
「ええ まぁ」
「でも毎日同じ味だと飽きてきて時々外食などもされると思います
例えば コンビニでお弁当を買ったりとかも」
「そうですね」
「そこで 社長は社員の余計な出費や時間を
無駄にさせたくないと考えたのです」

ここ小田原工場は内藤一哉が40歳の社長就任時に建て替えられ
赤坂もその時に工場長として任命された
母親が社長時代はまだ工場も今のように食事をする所も無ければ
社員寮も離れていて生産効率が悪かったし士気にも影響していたし
遅刻や給料の前借や色々と問題があった
内藤は『社員が安心して住める場所 安心して食する処』を考え





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