「すみませんが 神山さんでしょうか?」
「はい」
「初めまして 私はアルタ小田原工場の赤坂と申します」
「こちらこそお忙しい時に申し訳ございません」
赤坂が名刺を神山に手渡しながら挨拶をした
まだ4月の朝9時なのに陽射しが強かったが
夏の陽射しとは違い気持ちよかった
太陽に照らされた赤坂の顔はアウトドアスポーツマンだった
「さあ 神山さん こちらの車です」
赤坂はロータリー脇に止めてある車に案内した
「工場まで20分位ですが 暫く我慢してください」
「はい 分りました」
神山は赤坂の運転する車で工場に向かった
運転している赤坂から
「しかし 実際にお会い出来るとは思ってもいませんでした」
神山は赤坂が何を言おうとしているか分らなかった
「実は 鈴やさんの仕事で 唯一
『神山さんの仕事には間に合わせる』と社命があるのです
そんな神山さんに お会いできるなんて幸せです」
「そんな そんな事ないですよ」
「いえいえ わが工場では有名ですよ」
「どのようにですか?」
赤坂は少し考えて
「都内で仕事が出来る一番の人だと」
「それは ありがとうございます しかしそんな事ないでしょ」
神山は否定をしながらも心の中では嬉しかった
都内の百貨店に殆ど入っているアルタから評価を受けたならば
話半分でも嬉しい事だった
「特にですね 神山さんの場合決定が早いですよね」
赤坂は神山の仕事を過去から見ていたのか話が進んだ
神山も過去の仕事を思い出しながら話をしていた
赤坂の話を聞くうちに自分を良く監察していると思った
「そうでしょ だから私たち小田原では神山さんの
現場には絶対に穴をあけないようにしていのです」
「そうですか ありがとうございます」
「そうですよ 都内で一番の設計者とお会い出来るのは光栄です」
「ちょっと待ってくださいよ 僕は設計者ではありませんよ」
「まあ なんでも同じ事です」
赤坂は笑い飛ばし運転した
笑いながら話をしているとアルタ小田原工場に着いた
工場は小高い丘の上にあり相模湾を見渡せる所に有った
玄関の車寄せに着くと数人の出迎えがあり
その中に横浜の田代 純一が笑顔で迎えてくれた
車から降りて田代と挨拶を交わすと
「ありがとうございます こんな田舎まで、、、」
「どうしたの? 田代さん」
「ええ 神山さんの仕事だけではなく他の所の納品もあるので」
「あっ そうか 大変だね、、、」
「ええ 丁度仕上がりチェックが重なったものでして、、、」
田代は詫びれずに言った
神山もそんな田代に
「しかし 忙しいのに塗装の件はありがとうございます
助かりました」
「いえいえ その件は赤坂の仕事ですから、、、ねぇ所長」
「はい 実は神山部長さんのお仕事だけではギリギリだったのですが
丁度 塗装工程があいたので先に仕上げました」
「そうなんですか ありがとうございます」
神山は赤坂に深々とお辞儀を済ませると 工場に入っていった
天井が高いその建物は 今まで見たことがない大きさだった
ここでは金属加工からプラスティック製造 そして木工加工まで
言ってみれば何でも作ってしまいそうな工場だった
大げさに表現すればマンションを発注しても
ここの工場だけで造る事も可能な設備を持っていた
余りの大きさに感心していると
「さあ ここが神山さんの部屋です」
案内をする赤坂が扉を開けると 100畳位の部屋だった
そこには神山が発注をした什器や建具があり
工員達が観音扉などの取り付け寸法を間違わないよう
鉛筆で印をつけたり金物を取り付けているところだった
什器制作も最終段階に来ていると安心した
神山は殆ど完成した什器に歩み寄り 色々な角度から観察していると
自分が思った色と違う出来栄えに首を傾けていると
「神山さん 仕上げの色が違うと感じているのでしょう」
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