2012年3月7日水曜日

Vol.606 ゆり -6-39



「でもね お嬢さん 男は弱いんですよ ついついスケベ心で ねえ旦那」
神山はついに旦那になり
「そうなんだ 誘われて ついつい行ってしまった ごめんね」
後ろで聞いていた女将も
「大丈夫だよ この人は正々堂々として格好良かったよ お嬢さんが
選んだ人は立派だよ ほんと」
由紀枝は立派をおちんちんと勘違いして顔を真っ赤にして
「ねえ もう関係者以外の人に見せないでね お願いします」
それを聞いた女将や大将 神山が大笑いした
由紀枝も笑っている理由が分り余計に顔を赤くして下を向いてしまった

大将が神山に
「旦那 これもご縁だ はいこれサービス どんどん食べて」
神山は下駄に大トロや中トロの刺身を並べられ驚くと
「いいですよ 気持ちがいい人にはどんどんサービスするんですよ」
女将が
「だからねうちは傾いているのよ ほんと困ったもんで だけどね
お客さんが美味しいって食べてくれると張り合いが出ますよね
まあ それで持っているんですよ 遠慮しないで食べてくださいよ」 
神山と由紀枝は出された大トロを食べると口の中でとける美味しさだった
由紀枝が大将に
「すごく美味しいわ 久しぶりよこんなに美味しいの」
「へえ ありがとうございます 誉めて頂くと嬉しいですね」
隣りで聞いていたお客が神山に
「ここの大将は味が分る人にはどんどんとサービスをするんですよ
それで知ったかぶりが美味しいと言っても分るみたいで
サービスは無いんですが そこは商売で食べて貰おうと努力はしていますよ
だからお客さん達は本物の味を知っていると認められたんですよ
良かったですね」
「そうですか ありがとうございます 光栄です」
由紀枝は大将に差し障りない程度に自己紹介をすると大将が驚いて
「ええ 知っていますよ あの大竹さんでしょ そうですか
ご親戚の方ですか いえね私と一緒に仕事をする前に沼津で
働いていたんですが友人が亡くなってそこの料理屋を止めてきたと
そう聞きましたよ そうなんですか お元気ですか」
「ええ 今でも包丁捌きは天下一品よ ねえ神山さん」
「うん なにしろ美味しいね あの人の捌きは」
「ええ 沼津で大分勉強したと言ってましてね私も見習っていましたよ
お~い おまえ達 新しい人だ 味を見てもらえ~
あっちが長男坊でこっちが次男坊です 今美味しい刺身作りますから」
女将が
「神山さん あの時の二人ですよ ほらあそこに」
神山は女将が指を差す方を見るとニコニコしてお辞儀をしていた
「うちは月に1、2回連休を頂いてそれぞれ旅行をしているんですよ
その時はああやって厨房の人も一緒なんですよ」
「それでたまたまお会いしたんですね」
「ええ 神山さんが女風呂にきたお陰ですよ」
そんな話をしていると 長男と次男の刺身が下駄に並べられ
「うん 美味しいよ 大丈夫だよ」
由紀枝も頷いて 美味しいと言ったが
「でも お父さんにはまだね 頑張ってね」
「お~い おまえ達 頑張ってだとさ」
「へ~い がんばりま~す」
なんとも威勢いいお店に神山と由紀枝はすっかり気に入った
神山がねぎとろの細まきを頼むと快く引き受けて作ってくれた
「へい お待ちどうさま」
大将が新しい下駄に六巻切りのねぎとろを乗せて出してくれた

神山が店内を見ていると座敷は結構長居するお客だが
カウンターのお客は回転が速かった
隣りの客が遅い時間になるとカウンターでゆっくり食べる人が
増えてくると言っていた 
だから美味しい刺身を食べるなら早い時間の方が良いとも教えてくれた
神山と由紀枝は呑んだり食べたりして満腹になって会計を頼むと
大将がメモを女将に渡して
「神山さま 7000円です ありがとうございます」
「えっ 日本酒を呑んでいるよ いいの」
「ええ 大丈夫ですよ ちゃんと入っていますよ」
神山は1万円札を出すと
「こんなに安いと来れないよ これでおつりは次回にねっ」
女将はニコニコして
「はい 分りました ありがとうございます」
女将がお辞儀している時に大将が名刺を出して
「予約も出来ますから 電話を下さい 座敷の奥がありますよ6人位





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