2010年7月20日火曜日

Vol.9 出会い -1-1

「えっ ホテルで・す・か、、、」
「ええ 会社で年間契約をしてくれて 安く泊まれるの」
「へぇー 凄い会社ですね いいなぁー」
「でも 毎日同じお部屋だと飽きるわよ それにシングルで狭いの」
「そうかー シングルで狭いって言うと僕のところと一緒だ」
「まあ 神山さんのところって 狭いんですか?」
「うーん 住めば都ですかね 寝るだけですから」
「そうなんですか、、、」
「暫くしたら引越しをしてもいいかなと思っているんですよ」
「そうしたら 会社の近くがいいですね」
「でも 家賃が高いでしょ お給料と相談ですよ ははは」
実際 今住んでいる部屋は狭かった
10畳のワンルームなので もう少し広いところに移りたかったが
昇進や移動でなかなかゆっくりと部屋探しが出来なかった

「実は神山さんに教えて頂きたい事があるの」
「なんですか?」
「ええ 今度 上原にアンテナショップを出すんですよ」
「へぇー 凄いですね」
「ええ それでね 私が責任者で現場を見ることになったの」
「またまた凄いですね」
「でもね 図面の見方とか 色々と分からない事だらけなんです」
「いいですよ 分かる範囲で教えますよ」
「わぁー よかった ありがとうございます 嬉しいわ」
「とんでもない 僕でよかったら どんどん言ってくださいよ」
「頼もしいなぁー それでねホテルからマンションに移ったの」
「なるほど 現場に近いほうが 便利ですよね」
「そうなんですよ ただ名古屋に帰る日が少なくなって、、、」
「って言うと お子さんとかご両親の事ですか?」
「そうなんです 実は私 ばつ一で向こうに子供が居るんですよ」
「それは寂しい話ですね じゃあ僕が頑張りますよ」
「嬉しい ありがとうございます」
二人が話し込んでいるとタクシーは高速を下りて
久保祥子が指示した上原3丁目の交差点についた
「お客さん 着きましたよ」
「はい ありがとうございます」
神山が5千円札を出してタクシーから降りた

「ごめんなさい ここから少しだけ歩くの」
「いいですよ でもこの辺は高級住宅でしょ 凄いなぁー」
「上流階級の人達が多いから ショップに都合がいいんです」
「うん なるほど そうですね」
「駅のモールにニーナ・ニーナを入れて貰えるか否か 
大変な時なんです 結構小さいスペースなんですけど 
今 他のブランドと競っている所なんです」
「それは大変な時期ですね」
「ええ 地域的にはブティックが新宿にあるので 
無理して入らなくても良いとは思っているのですが
やはり上流階級が住んでいる場所の基点にしたいみたいです」
「なるほど それでアンテナショップですか」
「ええ ある部分ではその通りですが 服飾関係だけを
販売して行きたいとの考えなんです
私は少しスペースが足りないと言う事で反対はしているのですが」
上層部からの命令で どうしても確保したいのです」
「それは 大変なお仕事ですね」
「ええ ブティックがオープンしても満足な品揃えが出来ないし 
困っています」
「それなら ビジュアルマーケティングの基本的なことは
分かりますから いっぱい応援しますよ」
「わあっ 嬉しい」
久保祥子の顔が明るくなった
やはり 大切な事柄を抱え込んでいたのだ
まあ 自分なりに全力を尽くしてみるか


久保祥子は神山が勤務する株式会社鈴やが70%出資した会社で
ニーナ・ニーナジャパンという青山に本社がある会社に勤務している
役職はチーフで副社長直轄の部長になる
サブグランドマネージャーの筒井は出向社員だった
銀座店で婦人服飾部長を務め3年前にニーナ・ニーナに出向した
筒井と神山は上野店の時からの知り合いだった
神山がまだ入社した頃 装飾の打ち合わせで筒井とよく話していた
たまたま軽井沢で店外催事があった時 総責任者が筒井だった
その時 神山は婦人服の装飾コンセプトを筒井に聞いた