2010年7月19日月曜日

Vol.8 出会い -1-1

「神山さん もう24時になりますよ 大丈夫ですか」
一瞬迷ったが タクシーで帰ることに決め
「ええ 僕は大丈夫ですが 久保さんは平気ですか?」
「ええ 私 明日はゆっくり出る事になっているので大丈夫です
ところで神山さんのお住まいは どちらですか?」
「僕は横浜ですよ 駅から歩いて10分くらいかな」
「そうすると毎日 満員電車で 出勤されているんですね」
「ははは そうです もう大変ですよ
先ほどのエレベーターどころの騒ぎではありませんよ」
「まあ そんなに込んでいるんですか」
「そうですよ 周りに女性が居れば多少なりとも
精神的にも気分が楽になるんですがね 男ばかりだとねぇ」
「まぁ 女性が居るとどうなんですか?」
「ほら あのー この子は独身なんだろうか とか色々と
妄想の世界に入り考える事が出来るでしょ 時間つぶしですよ」
「そんなに込んでいると本も読めないですよね」
「本なんて とんでもない 両手を開けていないと大変な事ですよ」
話をしているといくら時間があっても足りないくらいだった

今度は神山が時計を覗いてみると25時になりそうだった
「久保さん もう25時になりますよ そろそろどうですか?」
「そうですね そろそろ出ましょうか」
「そうしましょう」
神山は立ち上がると 久保の手を取り転ばないよう気をつけた
しかし久保は段を踏み外し 神山の腕に体をあずける格好になった
その時ちょうど腕の中に胸が飛び込んできて
(おいおい 大きな胸だな 柔らかそうでいいなぁー)
「ごめんなさい 少し呑み過ぎたかしら」
「大丈夫ですか 僕がもっと支えていれば良かった ごめんなさい」
「優しいですね 大丈夫ですよ」
二人は顔を見合わせて また笑った

神山が精算をしてエレベーターで降りて外に出ると涼しかった
久保の横顔を見てみると 少し上を向いて目を細め
正面から来る優しい風を気持ちよさそうに浴びている様子だった
「あーあ 久しぶりよ 楽しかったわ」
「うん 僕も楽しかったよ ありがとうございます」
「どういたしまして ねえこれから横浜に帰るの?」
「ええ ビーンズで半額になったしタクシー代が出ますから」
「えっ そんなに高かったの あそこ」
「いやいや そんなに高くないですよ ただ半額になったから
タクシー代に少しまわせるという事です」
「ここからだとどのくらいかかるの?」
「そうだな1万円はかかるかな」                            
「えっ 1万円 勿体無いわ 私のお部屋でよかった来ませんか」
「また ご冗談を」
「だって1万円でしょ 私だったら泊めて貰うわよ どうぞ」
「そうか 本当にいいんですね 僕は男ですよ」
「分かってますよ 女じゃない事も ふふふ」
「そうしたらタクシー代 僕が持ちますよ でっ どこですか?」
「代々木です」
「そうしたら20分もあれば大丈夫でしょ」
「もう少し時間がかかると思いますよ 少し奥ですから」
「じゃあ 早速タクシーを拾いましょう」
神山はここからだと 江戸橋から首都高に入ったほうが
近いと思い 秋葉原方面のタクシーを拾った

タクシーに乗ると運転手が
「どちらまでですか」
「ええ 代々木上原までお願いします」
「代々木上原のどこ」
「あのー上原3丁目の交差点でお願いします」
「上原3丁目でいいんだね」
「ええ 高速を使ってください」
「わかったよ」
久保祥子は神山の手をぎゅっと握り締めてきた
神山は久保祥子の顔をみて 大丈夫だよと頷いてあげた

久保は運転手が怖いのかずーっと黙ったままだった
神山はこの雰囲気がたまらなく嫌で 何でもいいから話そうと思い
「久保さん 代々木上原って もう昔からですか?」
「いいえ まだ入居して1週間も経っていないのよ」
「じゃあ それまではどうされていたんですか?」
「ずーっとホテル住まい」





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