2010年7月13日火曜日

プロローグ 1

「わぁー どうして死んだんだぁー バカヤロー」
神山龍巳は 思い出の場所で一人遠くを見ていた

昨年4月に交通事故で亡くなった庄司由紀枝を忘れられず
二人でよく来た 森林公園に来てしまった 


「今日はね サンドイッチと簡単なサラダとウインナーと、、、」
「ははは 分かったってば それから良く冷えたワインだろ」
「ピンポーン よく判るわぇー さすが山ちゃん」
「でも ビールは持ってこなかったでしょ」
「あっ いけない 忘れたぁー」
「ははは そんな事だろうと思って 用意しておいたよ」
「わぁー よく準備してくれたわ ありがとう」
「だって 去年の紅葉狩りの時も忘れたでしょ」
「そうね そうだったわ ごめんなさい ふふふ」
由紀枝が神山と自分のグラスにビールを注ぐと
「じゃ お花見で乾杯だ」
「はーい 楽しいわ 山ちゃんと一緒だと」
由紀枝は笑顔で神山の目を見つめながらささやいた


神山龍巳はその時座ったベンチに一人で座っていた
桜がちょうど満開で 周りの景色は昨年と同じだが
今年は 庄司由紀枝が向かい側にいない

森林公園は名古屋市にある広大な敷地の自然公園で 
桜の時期は花見客でいつも賑わう名所だ

二人が座る場所は決まっていて 敷地の広場から離れ
桜が良く見える 大きな木の下のベンチだ

庄司由紀枝が用意したアウトドア用のチェアーに座り 
ベンチにはテーブルクロスをかけ ひと時を楽しんだ
そのチェアーも 今は神山龍巳の部屋で寂しそうにしている       


「すみませーん ボール取ってくださーい」
小学生の女の子がサッカーボールを追いかけ 
神山龍巳の処まで転がってきたが 気が付かなかった

その女の子は 神山のところまできてボールを拾うと
ぼんやりとしている神山を見て首をかしげ家族のところに戻った
「ねえ ママ おのおじさん 可笑しいよ」
「どうして?」
「だって ボールとってくださいって頼んだのに 何も答えないし
私が そばに行っても 何も話さないで ぼぉーっとしている」
「まあまあ 大人には色々と考える事があるから 勘弁してね」


神山龍巳は時計を見ると13時を指していた
小さなボストンバックから 由紀枝と一緒に呑んだワインを
ベンチの上に出し コップもその時の使ったコップを持ってきた
コルクを上手に外すと コップにワインを注いだ

「由紀枝 どうか天国で 幸せになってくれ 乾杯」


庄司由紀枝は会社の用事で東京に出張し 名古屋に戻ると
タクシーを利用し神山と逢う途中の事故だった

今でも悔やまれるのは 神山が名古屋駅まで迎えに行っていれば
由紀枝は死なずにすんだと思っている




.