「よぉ ようやく来たな」
「ごめんごめん 遅くなっちゃった」
「いいよ ちゃんと料理は残してあるから」
今夜は 上野店営繕課の歓送迎会で招かれた
神山が営繕課に在職していた時 よく色々と教えてくれた同期生が
今日の人事発令で熱海の家族寮長に移動が決定した
引越しなどが絡むので 本人には事前に知らされるが
この類の情報は直ぐ皆に伝わり 今夜の大送迎会となった
歓迎会の迎えるほうは高専を出たばかりの子で
この会には出席しないと言われた
「でも ネコちゃんが居なかったら 営繕課に居られなかったな」
「ははは そんな事無いさ 山ちゃんの事はみんなが認めているし
例の竹本工務店との事で 余計に有名になったし」
「ははは あの件か あのデザイナーも大した事なかったな」
「そうだよ 山ちゃんのほうがちゃんとポイントを言っていたもん」
「だけどさ 俺 今年9等級に成れ無かったよ」
「おいおい そんなに偉くなってどうするんだ
俺だってまだ係長だぜ そんなに離さないでくれよ ははは」
「でも 9等級になれば給料がいいし 待遇が違うって」
「分かるよ でも俺たち技術者ってよく見られていないんだよ」
「そうだよなぁー デザインだって同じさ」
「でも山ちゃんは 既成事実を作ったからこれからさ」
「吉と出て そのまま進めばいいけどね」
ネコちゃんこと金子義男は神山と同期入社で 営繕課機械担当で
入社以来機械技術一筋の人間だった
神山が営繕課に来たときには 分からない事や機械技術の
話などをよく教えてくれた
今回は若い子が入社してきた事と熱海家族寮長が体調不良で
入院ということで 金子に白羽の矢がたった
「ネコ 大変だけれど がんばれよ」
「そうだな ボイラー関係から電気関係まで見ないといけないし」
「そして美味しいもの食べてだろ」
「かあちゃんはそれだけが喜びだとさ」
「ははは それはそうだろう 浦和の魚より熱海の魚だろ」
「ははは まあな」
「ところで奥様は元気?」
「うん 昨年2人目が産まれて 毎日が大変さ」
「そうか ごめん全然知らなかったよ また女の子?」
「うん ちんぽが付いていないからがっかりしたよ」
「ははは でも女の子ってお母さんの手伝いするしいいんだぞ」
「そう言えば もう大きくなっているんだろ」
「うん まあ 向こうで元気にしているみたいだ」
「なんだ 会っていないのか」
「うん なんかさ 気まずくてな」
「まあな 浮気が原因で 別れた子供に会いましょってもな」
「だろう だから時々電話連絡をするくらいかな」
「でも 元気ならいいや 早く嫁さん見つけろよ」
「うん でもな これと思うのがなかなか居なくてさ」
「遊んでいるからだよ 真剣に探せよ」
「おいおい 今夜はネコちゃんの送別会だぜ ははは」
「そうだったな ははは 料理を食べよう」
二人の話が一時中断すると 神山に話したい若い子や金子に
お別れを言う若い子が順番待ちで話をした
その若い子の中でも 金子が良く可愛がった子が
「先輩 熱海に立ち寄ったら 奥様を拝ませてくださいね」
「ははは いいよ かあちゃん喜ぶぞ」
金子の奥さんは どうして金子と結婚したのか分からないくらい
上野店の美人エレベーターガールだった
一説によると エレベーターが故障して修理をした後に
プロポーズをして その彼女も面白い男性と思って
付き合い始めたと言われているが 定かではない
「なあ ネコ かあちゃん未だに干物が好きなのか」
「うん 相変わらず好きだよ お陰さまで俺も綺麗に食べるよ」
「ははは 調教されたって訳か」
「ははは そうだ 調教されたよ あの可愛い笑顔で言われたら
どんなに辛くても 心がなごむよ」
「可愛かったなぁー」
「なんだよ 過去形は 今でも充分可愛いぞ ははは」
「そうか そうしたらこの夏は熱海寮で過ごそうかな」
「おうそうしよう 山ちゃんがいれば楽しくなるよ 下手な踊り」
「ははは もう時効だよ あれからフラダンスは踊っていないよ」
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