2010年7月15日木曜日

Vol.2 出会い -1-1

大きなビルの前に着いた
4階から上が居酒屋さんというちょっと珍しい建物だった
「久保さん このビルはね昨年秋に出来て
最初なにが入るのか検討も付かなかったらしいですよ」
「このお店なら銀座にもあるわ 銀座はもう2年位経つかしら」 
「そうそう あそこと同じところが経営していますよ」
「近いうちに私たちが ご招待しますよ」
「ええ お願いします」

エレベーター周りは居酒屋のイメージではなく
どこかのブティックにきたような ファッショナブルな造りだった

浜野由貴と林恵美は始めて見る 居酒屋のエレベーターに驚き
「神山さん ここって高くないんですか?」
「ははは 大丈夫ですよ チェーン店だから安いですよ
多分 銀座と同じじゃないかな」
平日だといってもお花見の時期なので エレベーターを待つ
サラリーマンのグループなどが結構多く見られた
「普段はもう少し静かで お客さんも程ほどですが 
この時期はちょっと 多いですね」
「そうですよね お花見でなくてもここら辺は人が多いですよ
なんと言っても鈴やさんや アメ横があるから」
「そう まあ持ちつ持たれつですかね」

4基あるエレベーターのうち2基が居酒屋専用となっていて
そのうちの1基が降りてくると 扉が開いた
箱の中からは 今まで呑んでいたお客がわんさかと出てきた
神山たちは最初に乗り込んだので 箱の隅の方においやられ
ちょうど久保と向き合う格好になり ちょっとばつが悪かった
最上階の8階で降りると そこは普通の居酒屋さんの構えだが
木札の付いている下駄箱だったり 廊下が畳敷きなど
少しばかり料亭の雰囲気を楽しめる内装だった

受付で待っていると若いスタッフが席まで案内してくれた
隣とのパーテンションは深緑色の漆喰風の落ち着いた壁の上に
黒色格子の障子が設けてあり なかなかしゃれていた
席は掘りコタツ式になっていて 足が伸ばせるところが好評で    
男性だけではなく 女性の利用が多いのも頷けた
テーブルは丸太をスライスしたものがそのまま置かれていて
木肌の温もりを感じながら 食事が出来た
席順は久保祥子の隣に神山が座り 反対側に浜野と林が座った

「チーフ なにか足元がすうすうしませんか?」
「そうね 私も少し感じる うん」
「ははは これはですね タバコの煙を吸う機械があるでしょ
あれの 足元バージョンですよ」
「そうなの だから少しすうすうするんですね」
「会社の帰りだと 気を付けていてもねぇ」        
「そうね 男の人だけじゃなくて 女性でも汗をかくし助かるし」

浜野と林はメニューを見ておつまみや飲み物を探していた
「神山さんは何を呑まれますか?」
林はメニューから目を離し 神山の顔をじっと見つめ聞いた
「僕は軽く 焼酎のグレープフルーツ割にしますよ」
「じゃ私も 同じのにするわ」
神山と林の呑みものが決まると 他の二人も同じものにした
「おつまみは何にされますか?」
神山は林からメニューを受け取ると 暫く考え                    
「うーん なんでもいいけれど そうだなこれとこれかな
それより 女性が食べたいものを頼んでよ
ここは僕が誘ったんだし ご馳走させて頂きますよ」
「はーい じゃいっぱい頼んでも大丈夫ね」
浜野由貴は愛らしい目をくりくりさせて 神山龍巳を見ていた 

スタッフが注文聞きに来ると 林と浜野が争うように注文し
「神山さん 以上でいいですか?」
「うん 僕は構わないよ 君たちはそれでいいのかな」
「ええ ありがとうございます 大丈夫です ねぇ店長」
「ええ 大丈夫ですよ」

スタッフが戻ろうとした時に神山龍巳が
「悪いんだけど ビールと簡単なおつまみだけでも先にお願い」
「はい かしこまりました 直ぐにお持ち致します」
若いスタッフは丁寧にお辞儀をして 戻っていった







.